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【青森県近代文学の名品】 |
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| Vol.60 板垣直子『漱石・鷗外・藤村』 1946年 巖松堂書店 18.5 x 13.5cm 445頁 板垣直子(1896−1977)は明治29年北津軽郡栄村湊(現五所川原市)に平山兼吉の次女なをとして生まれた。青森県立弘前高女を経て、大正3(1914)年、日本女子大学英文科に入学。卒業後研究科に在籍、母校の推薦で大正10(1921)年には東京帝国大学の第1回女子聴講生となり美学・哲学を修めた。その後国士舘大学、日本女子大学、千葉大学等で教鞭を執りながら、わが国の先駆的な女性文芸評論家として活躍した。 ここに紹介する『漱石・鷗外・藤村』は戦後直ぐに刊行した比較文学評論である。各作家とも、まず伝記を置き、次に作品論を展開するという同じ構造を持ってる。そして最後は3作家を比較検討する章で締めくくっている。夏目漱石の親友でもあった帝大の大塚保治美学教授の教えを受けただけあって、板垣直子の批評のスタンスは、しっかりした基準をうちに持っていて、それに照らして各作家を論じていく。駄作は駄作、傑作は傑作と歯切れのいい判断を下して小気味よい。各作家に共通する特長として、最期に至るまで作品が線的発展を遂げていると主張する。すなわち凡庸な作家に見られがちな自己模倣による停滞に陥ることなく、作品ごとに新たな展開、発展を示しているというのである。かくして漱石は『明暗』、鷗外は『渋江抽斎』等の史伝小説、藤村は『夜明け前』で絶頂を迎える。そしてその発展を支えているものは作家固有の知性であり思想性であると指摘する。 特に漱石と鷗外の比較にはいろいろ考えさせられるものがあった。たとえば、鷗外の「内面には、いはゆる思想するひだが無限にある」と言って、「含蓄の深さ」においては漱石は鷗外に及ばないと結論づけている。しかし面白いことに、彼女は鷗外ではなく『漱石文学の背景』(1956)『夏目漱石 伝記と文学』(1973)といった漱石に関する研究書をその後2冊も出しているのである。ともあれわが国の文芸発展に寄与する視点から評論活動を行った板垣直子はもっと知られていい存在だと思うし、もっと読まれていい作家である。 (館長・黒岩恭介) (平成20年05月29日付・毎日新聞「今週のお宝」掲載) |