Vol.33 石坂洋次郎 「わが日わが夢」(限定版)
『わが日わが夢』は、石坂洋次郎(1900〜86)が郷里の津軽を題材に描いた短篇集である。
明治の終わりから大正にかけての城下町・弘前の人々の生活や風物が、主人公の友一少年の目を通して描かれる。ねぷた祭り、お山参詣、子供達の川遊びや大人との交流、芝居小屋「やなぎ座」や、嶽温泉の湯治の思い出―。大人になりかけた友一少年の、近所の後家・げんや、やんちゃな女友達トミなど、女性に対する淡い想いも描かれ印象深い。石坂の「少年の日への郷愁(ノスタルジア)」が込められた作品である。
昭和21年7月、文生社から、石坂の戦後初の単行本として刊行。以後、版を変え何度も出版されてきた。昨年は石坂の没後二十年を記念し、路上社から復刻版が、さらに今年は英訳版が出版された。今も多くの人に愛される作品である。石坂自身この作品を大切にし、「作者として一番愛着を感じる作品は、と問われれば、躊躇なく『わが日わが夢』に収められた作品をあげるだろう」(昭和24年7月・中央公論社版「あとがき」)と述べている。
立風書房版『わが日わが夢』は昭和49年10月に限定四百五十部で刊行された。各版で収録作品や内容の違うこの作品を、石坂はこの立風書房版で最初の文生社版の内容に戻している。「郷里である弘前への初心的、あるいは土着的な郷愁」を生かしたためであり、「『老いては子にかえる』という心理が作用した」(「あとがき」)という。七十才を越えた石坂の、この作品への愛着が伝わる。
装幀・挿画は弘前市出身の洋画家・佐野ぬいが手がけ、表紙は青森市出身のこぎん刺し研究家・工藤得子による「手刺しこぎん〈牛(べこ)の足〉」によって装われた。石坂が「この本にはすみからすみまで『津軽じょんがら節』のリズムがひびいている筈である。」と述べるとおり、手に取ってページをめくるほどに「津軽」があふれてくる、そんな一冊である。
(主幹・佐々木朋子)
(平成19年11月15日付・毎日新聞「今週のお宝」掲載)
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 『わが日わが夢』(限定版) 昭和49年10月・立風書房刊 限定450部のうち第193番
装丁挿画・佐野ぬい 表紙津軽こぎん手刺し・工藤得子
 『わが日わが夢』所収「壁画」のための挿画 (佐野ぬい画)
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