Vol.32 三浦哲郎 原稿「渚の文学館」
200字詰め原稿用紙5枚 2005年4月
『全国文学館ガイド』全国文学館協議会編(小学館、2005年)
三浦哲郎(みうら てつお 1931−)は青森県出身で唯一の芥川賞作家である。昭和36年自らの出自を背景にして、薄倖の女性「志乃」と「私」との純愛を綴った小説「忍ぶ川」で第44回芥川賞を受賞した。
ここに取り上げる原稿「渚の文学館」は『全国文学館ガイド』で紹介される青森県近代文学館のために書き下ろしたエッセイで、三浦が本格的に文学と取り組む以前、家庭の事情で早稲田大学を休学して郷里八戸に帰り、助教諭として中学校で英語と体育を教えていた昭和25、26年頃のことを振り返っている。話題の中心はそのころ八戸で割烹旅館石田家を経営していた幻の詩人、村次郎(1916−97)である。「私は、土曜日の放課後、近くの海べりに住む村次郎という詩人を訪ねて、いっとき彼の文学談義に耳を傾けるのがならわしであった」と当時を回想し、一緒に浜を歩きながら、熱く文学を語る村次郎が、興に乗って渚の濡れた砂に書き付けた「マスゲーム/マスゲーム/まちがった少女/まちがった少女/という四行詩に衝撃に近い感銘を受けた」と意外な思い出を語っている。「あのころの浜歩きは、私にとってまぼろしの『渚の文学館』といってよかった」のである。
三浦哲郎は健康問題もあって、平成12年近代文学館で開催した「三浦哲郎芥川賞受賞40年記念展」の時を含めても、残念ながらまだ文学館を訪れていない。「渚の文学館」は「いつの日か当館を訪ねて、いまは亡き村次郎の詩集や、心に染み入る四行詩の筆跡に再会するのを楽しみにしている」と締めくくられているが、遺憾なことに、近代文学館の常設展示室には村次郎は入っていない。村次郎については昨年度市内の方から、まとまって資料の寄贈を受けたので、できるだけ早く、村次郎を常設展示して、遅まきながらではあるが、三浦哲郎の期待に応えたいと思っている。
(館長・黒岩恭介)
(平成19年11月8日付・毎日新聞「今週のお宝」掲載)
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 原稿「渚の文学館」
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