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【青森県近代文学の名品】

Vol.17 北畠八穂 草稿「耳のそこのさかな」


「耳のそこのさかな」草稿 ポプラ社 1968年 佐藤米次郎=絵


「あるいてゆく六つのマヨコに雪がふります。いま、からだがさけそうにかなしいマヨコに、雪はたのしいあれこれを思いださせます。」―童話『耳のそこのさかな』は、こんな風に始まる。

大好きなおばあさんが亡くなって、おじさんに引き取られることになった六つのマヨコは、雪道を歩きながら、おばあさんに聞いたお話やわらべ唄を、次々に思い出す。おばあさんはすきとおったさかなになって、マヨコの耳のそこに住み、マヨコに語りかけて、百人前の力をくれる…。

青森市出身の児童文学作家・北畠八穂(1903〜1982)は、幼い頃「マコ」と呼ばれていた。父の郷里新潟で「かわいい子」を表す「マユコ」を縮めた呼び名という。週末は必ず祖父母の家で過ごし、とりわけ祖母からたくさんの物語を聞き、愛情を注がれて育った。悲しみの中からも明るい力を見つけ出すマヨコは、八穂の分身でもある。

八穂の没後、鎌倉の自宅に残された約5,100点の原稿・遺品等は当館に寄贈され、「北畠八穂文庫」として保存されている。草稿「耳のなかのさかな」もその一つである。愛用の原稿用紙に青インクの万年筆で書くのは、八穂のいつものスタイル。「こおりついた雪みちを、六つのマヨ子はあるいてゆきました。……」物語の骨格は同じだが、文章は決定稿までに推敲を重ねて、練り上げられたことが窺える。

しんしんとしばれる雪国の描写に、なつかしい津軽の民話やわらべ唄をちりばめ、八穂独特の感性で愛する人との別れを描いた珠玉の作品の原型が、この草稿に残されている。

(主幹・佐々木朋子)

(平成19年7月19日付・毎日新聞「今週のお宝」掲載)