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【青森県近代文学の名品】

Vol.15  阿部合成・今官一 「壁の花」表紙絵原画

薄暗がりの中で、壁にもたれてうつむく踊り子。後方で伸びやかに踊るのは、別の踊り子か、あるいはイメージの中の自分の姿なのか……。

この絵は阿部合成の作で、今官一(1909-83・弘前市)の作品集『壁の花』の表紙絵の原画である。作品集の題名〈壁の花〉とは、集中の「星の下のクヮルテット」に出てくる言葉で、自分の性に合った人としか踊らないため、相手もなく壁際に売れ残った踊り子の意味である。今官一は「星の下のクヮルテット」第2章〈壁のマリア〉を次のように書きはじめる。

「ことさらに、照明を薄めた(ニュウ・キャッスル・バレエ)の踊場でも、とりたてて、光のぼやけた、遊歩道(フォアイエ)よりの壁ぎはに、いつも彼女は腰かけてゐる。ほんとうは「壁の 花のマリア」なのだ。けれども、彼女の衣裳は、いつも喪のやうに、花咲かない。そして彼女の表情は、いつも、青い蕾のままである。

昭和31年7月末、今官一は『壁の花』で直木賞受賞の吉報を受ける。翌日、碇ヶ関に向かい葛西善蔵文学碑の除幕式に参列(23日)、人に請われて次のような色紙をしたためた。

「壁の花いつか咲く日のありぬべしまた想い出る夜もありぬべし」

相手もなく壁際に売れ残った踊り子〈壁の花〉。そんな踊り子にも一人の恋人がいたように、自分のような作家でも求める読者がいるに違いないという思いを書き記したものである。

(室長・櫛引洋一)

(平成19年7月5日付・毎日新聞「今週のお宝」掲載)