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【青森県近代文学の名品】

Vol.13   太宰治 晩年の執筆メモ

「津軽」「斜陽」「人間失格」など、多くの作品が現在も読み継がれている作家・太宰治。彼が晩年に執筆メモとして使った手帳は、没後、妻・津島美知子氏によって長い間大切に保管されていた。その後、平成八年に当館に寄贈された。

「文庫手帖」と記された黒い表紙の手帖には、晩年の代表作「人間失格」「如是我聞」「グッド・バイ」など、いくつもの作品の構想が記されている。日付や罫線を無視して、丹念に細かい字で書き込んだ部分もあれば、大きく走り書きした部分もあり、太宰の創作の秘密が生き生きと伝わってくる。

特に「人間失格」については、「あとがき」の下書きが二ページにわたって記されるほか、人物設定のメモや、有名な「罪の対義語(アント)」を書き付けた箇所もあり、活字となった作品とは最初の構想が異なっていたことなど、興味深い事実がわかる。

この創作メモが書かれたのは二十三年五月頃までと考えられている。翌月、太宰は玉川上水に身を投じ、三十九歳の誕生日である六月十九日に遺体が発見された。突然に死を選んだ太宰が、その直前までこのようにして創作に向かっていたという事実。肉筆の文字のひとつひとつが、太宰の生きた証として私たちに迫ってくる。

(主幹・佐々木朋子)

(平成19年6月21日付・毎日新聞「今週のお宝」掲載)