【青森県近代文学の名品】

Vol.10 西善蔵
書幅「白根山雲の海原夕焼けて妻し思へば胸いたむなり」
 西善蔵は、明治20年弘前市に生まれた。幼少時に生家が没落、一家は北海道や青森県内の各地を転々とした。私生活を顧みず、酒に溺れ生涯にわたり貧困の中に身を置いた西の作品は、処女作「哀しき父」をはじめ「子をつれて」「椎の若葉」「湖畔手記」など、身辺に題材を取っている。「文芸の前には自分は勿論、自分に附随した何物をも犠牲にしたい」という姿勢で創作に臨んだ、大正期を代表する〈私小説家〉である。

「白根山雲の海原夕焼けて妻し思へば胸いたむなり」

「湖畔手記」は、大正13年、私生活に問題を抱えた西がその生活から逃避するために奥日光・湯ノ湖の湖畔にある湯本温泉板屋旅館に投宿していた間に書いた作品である。
 「白根山雲の海原夕焼けて妻し思へば胸いたむなり」は、〈妻に宛てて書くつもりだ〉という手記の形をとった「湖畔手記」の作中、思うようにいかない生活を嘆く〈自分〉が詠んだ
2首の歌の1つで、その歌は弘前市徳増寺にある西の墓碑に刻まれている。

今年生誕120年を迎える西善蔵の書幅は、現在、青森県近代文学館常設展示室に展示されている。



「改造」第6巻第11号
大正13年11月 改造社刊

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