【青森県近代文学の名品】

Vol.26   佐藤紅緑 「あゝ玉杯に花うけて」初版本と連載誌

  佐藤紅緑(1874〜1949、現・弘前市出身)の代表作「あゝ玉杯に花うけて」は1927年5月から1年間「少年倶楽部」に連載され、28年4月に単行本が刊行された。新聞小説を多く手掛け人気作家の地位を築いていた紅緑が、同郷人である加藤謙一編集長の「子どものためによい読み物を」という信念に動かされて執筆した、初の少年小説であった。

  幼い時に父を亡くし、豆腐屋を営む叔父を手伝って暮らす主人公の青木千三(せんぞう)。小学校時代に千三と首席を競い合い、浦和中学へ進んだ柳光一(こういち)。この二人を軸に物語は進むが、中盤、千三は夜学へ通うことを許され、黙々(もくもく)先生の私塾に入門する。人間は全ての力を臍(へそ)に集中すれば剛勇・冷静・明智になるという先生の教えに触れ、千三は逆境に負けずに第一高等学校進学を目指す。「あゝ玉杯に花うけて」という標題は、旧制一高寮歌の歌い出しから取られたものである。

  当館では初版本のほか、10回目本文が掲載された「少年倶楽部」第15巻第2号を所蔵している。単行本では見られない、読者から寄せられた感激の言葉も掲載されており、反響の大きさが窺える。〈『あゝ玉杯に花うけて』は何と云ふ、まあ良い作でせう。貧に泣き、失望も起し、苦しみもして、希望を起し、感謝して一心勉強する心、臍の力、読者自ら奮起する、僕には心の薬であります。〉

  のちに紅緑は「諸君に善い言葉を聞かせ、善い行ないをするように奮励させ、そうして諸君を立派な人物にしたい」と少年少女への思いをつづり、「あゝ玉杯に花うけて」で提供した問題は「友情と義侠と師弟の愛」だったと明かした(「私の小説について」)。昭和初期の世相を色濃くとどめた作品であるが、込められた理想と志の高さは時代を超え、読む者に活力を与えてくれるものである気がしてやまない。少年向けの叢書や文庫に繰り返し収められてきた小説である。

(主事・竹浪直人)

(平成19年9月27日付・毎日新聞「今週のお宝」掲載)

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初版本(昭3・4、大日本雄弁会講談社)外函

「少年倶楽部」第15巻第2号(昭3・2)