Vol.20 村次郎 色紙「自画像」(27x24cm) 「春眠冬眠/年々白髪/夢無嫁無/詩又死」 左上に白字方印「村」
村次郎(1916〜97)は八戸の詩人、慶應義塾大学でフランス文学を専攻した。在学当時から種々の同人誌に詩を発表、特に「山の樹」では中村真一郎、芥川比呂志等と中心メンバーとして活躍した。当時からその詩才は注目を浴び、同人仲間たちからは別格的存在とみなされ、将来を嘱望された。
戦後応召先の中国から八戸に帰還し、作品発表を精力的に重ねた。昭和22年あのなっす叢書第一集として『忘魚の歌』をまた翌23年にはあのなっす孔版工房発行作品第一集として『風の歌』を刊行した。しかし昭和27年家業である旅館石田家を継ぐにともない、作品発表からは遠ざかった。
中村真一郎は「『山の樹』の誇りであった」と村次郎を讃え、ことあるごとに、八戸に引き籠もったままの詩人を惜しんだ。村次郎はこの呼びかけに対して「青春の日の何と遠くなったことでせう。變はらない友情、變はらない風が吹きます」と応えている。
この自画像は赤のインクで描かれ、同じ赤のインクで漢字だけの詩が書き込まれている。詩そのものはたいへん分かりやすい。夢も嫁も持たない村次郎の一生はやはり詩作に捧げられたことがいみじくも表白されている。この率直な四行詩は昭和31年頃まとめられた詩集『餘業私集』に収められた。これは家業に専念してからの四行詩の詩集であるが未発表である。
生前刊行された詩集は前記の二作品のみの現状を思うに、一日も早く村次郎の全詩集を誰もが納得のいくかたちで刊行されるのを待ち侘びているのは筆者だけではあるまい。
(館長・黒岩恭介)
(平成19年8月9日付・毎日新聞「今週のお宝」掲載)
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